利尻島・初夏の風物詩。面白いからやっている— オオナゴ掬い網漁 【ニッポンの魚獲り】
北海道の宗谷岬の西側に浮かぶ利尻島。中央に標高1,721mの利尻富士がそびえるこの島では、夏はウニとヒラメ、秋から冬にかけてはタコいさり漁、その合間にナマコの桁曳き漁、通年をかけて昆布養殖と息つく間もなく多様な漁が行われています。その利尻島で初夏の1カ月だけ行われる漁があります。
5月の連休明けに始まり、6月10日ごろまでの約1カ月間だけ行われるのが、オオナゴの掬い網漁です。オオナゴとはイカナゴの成魚のこと。鮮度が良ければ甘みのある極めて美味な刺身となる魚とのことですが、足が早い(痛みやすい)こともあり、北海道では食用として流通することはなく、市場ではすぐに冷凍され、専ら養殖ハマチなどの餌として出荷されているようです。
利尻島の港に浮かぶ〈第三秀栄丸〉の左舷には、太い鉄パイプに60mほどの網が取り付けられた「掬い網」という艤装が施されています。ゴメ(ウミネコ)や海鵜などの鳥山を見つけると駆けつけて、その掬い網をガクンと降ろし、鳥山の下にいるオオナゴの魚群を一気に掬い上げるという漁です。
「鳥山ができていても大群がいるとは限らないのさ」と言うのは〈第三秀栄丸〉の船頭・菅原秀次さん。
「(オオナゴの大群がいるかどうかは)海の色でわかるんだよね。すごく微妙なところで自分は色弱なので、今でもオヤジに上がってもらってる」
ブリッジの上に据え付けられた物見台でゴメの行方を見定めるのは60年にわたり利尻の海に出続けている父親の秀夫さんです。
この日は朝の7時過ぎから海に出て、ゴメの動きに翻弄されつつも昼過ぎまで網を落とすことができませんでした。今日はもうダメかという空気が漂い始めたとき、空を舞っていたゴメが一斉に一方向へ向かって飛び始めたのと同時に、ブリッジ上の秀夫さんがリモコンを操作し、船のスピードを一気に上げました。
数十秒走ったところで「降ろせ!」という秀夫さんの声。それと、ほぼ同時に秀次さんが網を降ろします。オオナゴの大群が網に入ると、ガクンという抵抗を感じてフネが減速します。一網で3.5トンの大漁でした。
「難しいけど面白い漁だね。でもたいして儲けにはならない(笑)。みんな面白いからやってところがあるんだ。少なくとも自分はそうだね」
面白いからやっている——。この漁に限らず、多くの漁師さんから聞くことのできる言葉です。