100マイルの沖から届いた海の幸に感謝を込めてつくる「イカめし 」 【船厨-レシピ】
もう10年以上も前の話ですが、北海道の恵山を母港に漁業を営むある漁師の親子を取材したことがあります。その漁師さんは6月から12月中旬にかけて、時化で海に出られない日をのぞいてほぼ毎日、親子二人でイカを獲るために出漁していました。
出漁は午後の3時。イカの群れを探し、荒波の中、漁場まで走ること3~4時間。時には100マイル(185km)以上も沖に出ることもあるそうです。10台以上積んだイカ釣りのロボットを駆使し、一晩中、操業を続けます。このロボットがなければ二人で操業するのは無理です。夜半まで操業した後、再び母港を目指し、早朝6時に帰港。昼夜逆転の日々が半年ものあいだ、続くのです。
「きつい仕事だけど、当たれば大きい。それがこの仕事の魅力だ」と当時、まだ若かった後継者は、そう語っていました。
普段、何気なく口に運んでいる大衆魚。わたしたちは、その生産者の苦労や獲り方までに思いをはせて食事することはなかなかありません。大間のマグロのように、テレビをはじめとするメディアにしばしば取り上げられるような漁ならいざ知らず、例えばイカのような誰もが当たり前のように口にする魚介となるとなおさらです。
イカを獲るという仕事が誕生してから後、刺身はもちろん、イカ焼き、沖漬け、イカそうめん、松前漬け、イカフライ、などなど、イカをおいしく頂戴できるメニューは、常に生産者の身近で開発されてきました。自分たちで食べるため、そして自分たちが獲った魚介を、少しでも、より美味しく食べて欲しいという願いがあったからです。
「イカめし」もその一つ。もともと獲れすぎたイカを無駄なく利用しようと、有名な北海道の駅弁が生まれたと聞いたことがあります。近頃のイカの不漁を思うと想像もできない話なのですが。
今回は、ちょっと工夫を加えてイカめしを洋風にしてみました。こうして美味しいメニューがひらめいて、新しい料理に挑戦するたびに、それは、日ごろ食卓においしい魚を届けてくれる漁業従事者のみなさんへのお礼になるのだと、そんな風に思っています。もちろん、このイカめしはとても美味かった! おすすめです。