情熱の米との出会いで実現したイタリアの港町の味(たぶん) 「リゾット・アッラ・ペスカトーラ」 【船厨-レシピ】
もっと簡単にできるかと思っていたのですが、思っていた以上に手間のかかる料理でした。とっちらかった鍋だの皿だのをひと通り洗い終えたところです。最後に残ったのはトマトピューレをつくるのに使った、ホールトマトの残骸がこびりついたザルです。悪戦苦闘しながらそのザルをきれいに洗いつつ、たったいま味わった料理の味を思い出します。かなり美味かったのです。こさえてやった相手も大喜び、大絶賛でした。
リゾット・アッラ・ペスカトーラ、ちょっとしゃれて書いてみましたが、まあ、魚介のリゾットのことです。それをつくろうと思ったのは、知り合いの農家から、美味いコシヒカリをお裾分けしてもらったことが発端でした。米を使ったシーフード料理をと考え、リゾットを思い浮かべたのです。ところが、リゾットのことをあれこれ調べているうちに、そもそもイタリアでは、使っている米が日本の米とは違うのだという当たり前のことに気づきました。
カルナローリ。それが今回使ったイタリアの米の名です。比較的新しい米で1974年に品種として登録されたとのことです。煮崩れしにくく、調味料の味が馴染みやすい、そして食感がしっかりしていることなどが特徴で、それはすなわち“リゾットに適した米”ということになるのですが、なんと、これを栽培している日本の農家が存在することを知ってしまいました。
この時点で、コシヒカリのことはすっかり置き去りです。
その農家は石川県の江戸時代から続く米農家で、若い経営者が金沢市内のイタリアンシェフに出会い、カルナローリに挑戦することを決意したとのことです。その物語(農業ビジネスベジ No.29)もまた面白いのですが、直接取材したわけではないのでここでは省きます。
でも、その方のチャレンジ精神、イノベーション魂、米づくりに対する熱意を知っておくと、このリゾットはますます美味くなるかもしれません。とにかく、今回、その日本産カルナローリをなんなく通販で手に入れることができました。
あとは新鮮な好みの魚介を買ってきて、本場イタリアのリゾットを目指してつくるだけです。拙子は「イタリアに行ったことがある」ことになっていますが、南フランスからモナコを越えて、サンレモという小さな港町をふらりと歩いて写真を撮ってきただけで、実は、イタリアで落ち着いてご飯を食べた経験がありません。もちろん本場のリゾットを口にしたこともありません。
それでも、奇跡の国産カルナローリを使ってつくったリゾットを口にしていると、サンレモの港で網繕いをしていた漁師たちの姿を思い出してしまいました。
インドアで海を感じるという目的は充分に達成されたわけです。
さて、後片付けの現場にもどります。ザル洗いに苦戦しながら、ひとつ思いついたことがありました。缶詰のホールトマトを使ってピューレをつくるなら、最初からトマトピューレを買ってきて使えば、こんな苦労はしなくて済んだのではないか? という、どうでもいいことでなんですけど。
カルナローリはまだたくさん残っているので、次回はトマトピューレを使わないレシピでリゾットを愉しんでみようと思います。
「リゾット・アッラ・ペスカトーラ」
■材料(2人分)
米(カルナローリ)1カップ、殻付きアサリ200g、有頭エビ2尾、スルメイカ1/2ぱい、ニンニク1かけ
鷹の爪1本、ホールトマト1缶、白ワイン大さじ3、オリーブオイル大さじ5、塩・胡椒適宜、イタリアンパセリ適宜
■作り方
1)アサリは殻が付いたままよく洗う。エビは背わたを取り除いておく。イカは皮をむいて胴の部分を輪切りにする
2)ボールの上に載せたザルにホールトマトをいれて、木べらなどですりつぶすようにしてトマトピューレをつくる
3)オリーブオイル大さじ3を鍋にいれて中火で熱し、潰したニンニクと鷹の爪を入れてを炒め、香りが立ったら取り除く
4)殻のついたままのアサリを入れてさっと炒め、白ワイン大さじ3を加えて蓋をして2分ほど蒸す
5)アサリの殻が開いたらえびといか、トマトピューレを加えてよく混ぜ、蓋をして3分ほど煮る。ボールの上に置いたザルに鍋の中身を入れて、魚介と煮汁とに分け、煮汁は600ccになるように、不足分はお湯を足して、弱火で温めておく
6)鍋にオリーブオイル大さじ2を入れて中火で熱し、米をに入れて、木べらなどで混ぜながら炒める。米が透き通ってきたら、1カップの煮汁を加え、焦げ付かないようにときどき木べらで混ぜながら煮つめる
7)汁気がなくなってきたら残りの煮汁の半分を入れて煮つめ、さらに汁気がなくなったら、残りの煮汁をすべて加え、15分ほど煮る
8)塩と胡椒で味を整え、わけておいた具を加えて全体を混ぜて火を止める。イタリアンパセリを振りかけて出来上がり