雲を眺めて天気を予測できますか? 【キャビンの棚】
5年も前のことです。平成30(2018)年12月20日、外国の駆逐艦から、海上自衛隊の哨戒機が火器管制(FC)レーダーの照射を受けた”事案”がありました。防衛省が公開した動画はいろいろな意味で興味深いものでした。いや、なにも不穏当な話題にするつもりはありません。天気の話です。
公開動画の中盤、まだFC照射を受ける前に、哨戒機のクルーが気象状況を報告する場面があります。再現しましょう。
「現在の現場の天候、風は050度、15ノット」
050度は「マルゴジュウド」と言っています。これはほぼ北東から秒速7メートル程度の風が吹いていることを表しています。
「視程20キロ」
これも「フタジュッキロ」と発話しています。
そして次です。
「雲はフタシーユー、マルサンマル」
まったく意味不明ですね。文字に起こすと、「2CU、030」となります。
CUとは国連の世界気象機関が定める「十種雲形」のうちの「積雲」を表す記号なのです。そして、雲量2。全天の2割を雲が占めています。030は雲の高さが3,000フィート(約900メートル)という意味だそうです。
さあ、どうです。もしあなたが小型船舶操縦士1級免許の保有者なら、「十種雲形」は勉強したはずです。覚えていますか。
1級ボート免許の学科教本を見てみると、「十種雲形」という言葉こそ出ていませんが、雲の写真とともに10種類の分類が載っています。
まず、「上層雲」として「巻雲」「巻積雲」「巻層雲」の3種、「中層雲」として「高積雲」「高層雲」の2種、「下層雲」として「層積雲」「層雲」「乱層雲」の3種、「垂直に発達する雲」として「積雲」「積乱雲」の2種、合計10種です。まあ、参考情報のような小さな文字で、そっけない記述と言えばそっけないですね。ちなみに、その記号は順に「CI」「CC」「CS」、「AC」「AS」、「ST」「SC」「NS」、「CU」「CB」ですが、教科書にはありません。
学科試験には気圧配置は出ても、雲の形を問う問題はまず出たことがないようですから、一瞥しただけでオシマイとした向きも多いことでしょう。
ただし、雲は天気の変化を予測するために大いに役立つものです。そこで、そっけない教科書ではなく、キャビンの棚に常備しておきたいのが、本書というわけです。
筆者の荒木さんは、気象庁気象研究所所属の気象学者。テレビでもおなじみですね。本書だけでなく、天気や空、雲などシリーズ本になっています。
さて、哨戒機が報告した「積雲」ですが、まあ、今時分の夏の季節だと、朝は雲一つない晴れた日に、地面で暖められた空気が上昇してお昼ごろに現れる雲です。
場合によっては「積乱雲」に発達することがあります。そうなると雷雨や雹、竜巻などの恐れもありますから、なるべくなら早めにホームポートへ帰っておきたいものです。
本書に、「積乱雲は水曜日に発達しやすい」という面白いトピックがあります。東京などの都会では、人間の経済活動によって大気中のエアロゾル(チリ)の濃度が平日と週末では変わるせいではないかという説です。ぜひ、本書をご覧ください。
ところで、先日たまたま近所の区立図書館に行ったら、本書がなんと「児童書コーナー」に置かれていました。それだけ、わかりやすいということでしょうね。全ルビ対応でお子さんでも読めます。