年末のわずかな期間にだけ行われる “ヨコハマ”高級ナマコ漁 【ニッポンの魚獲り】
街がクリスマスのイルミネーションに彩られ、賑やかさを増す年の暮れ、高級食材として名高い「横浜町なまこ」の漁が行われます。横浜といえば多くの方が神奈川県の“ヨコハマ”を思い浮かべると思るかもしれませんが、この横浜はホタテ養殖が盛んなことで知られる陸奥湾の東岸に位置する青森県北上郡の町名です。
ナマコ漁は、資源保護と商品価値の向上を目的に、漁期は12月末のわずか3日間のみ。また、一定の漁獲に達した時点で3日間を待たずにその年の漁は終了となるという希少な漁です。この漁に、横浜町を中心とした多くのホタテ養殖漁家が期間限定で従事しているのです。 (取材:2019年12月24日)
小さな漁港で迎えたクリスマスの朝
この年の年末、時化(しけ)が長く続いた後、ようやくナマコ漁が解禁となりました。青森県横浜町の鶏沢(にわとりざわ)漁港は、連なる船小屋のストーブに夜明け前から火が入り、そこかしこの煙突から煙が立ち上っていました。まだ暗い静かな港に舫われた多くの漁船からはエンジンの音が響き、人の気配が感じられます。その静かで美しい港に身を置くと、クリスマスの時期であることをしみじみと思い出したりしてしまいます。
6時を過ぎると、それらの漁船が一斉に舫いを解き放ち、港の外へ舳先を向け始めます。時化もあり、この年、2度目にして最後のナマコ漁への出漁です。
〈第二十七太洋丸〉に乗るのは船主の森川太志さん、長男・布章さんと奥さんの絵莉香さんの3名。
ナマコ漁の期間中は、ほとんどのホタテ養殖船が同じエリアで操業するため、海上はかなり過密な状況となります。6時45分になると、無線を通して漁協から操業開始の合図が各船に伝えられます。
森川さんらは引き続き慎重に操船し、周囲に注意を払いながら「八尺」と呼ばれる大型のマンガンを投入し曳きはじめます。
マンガンとは大きな鉄製の漁具の呼び名です。一般的に潮干狩りなどで使う熊手が巨大化したものといえばイメージしやすいでしょうか。これを沈めて海底を掻きながら、マンガンの後部についた網にナマコを集めていくわけです。
若い夫婦と父親3人の抜群のチームワーク
ある程度の時間がたつとマンガンを艫(とも=船尾)にたぐり寄せ、網を引き上げ、ナマコをデッキに広げると、再びマンガンを海へ投入。次の引き上げの作業までにデッキにばらまかれたナマコを選別し、樽に入れていきます。
その間の作業は手慣れたもので、船頭を務める布彰さんと奥さんの絵莉香さん、布彰さんの父親で船主である太志さんの3人のチームワークは抜群。効率よく、手早く選別を済ませ、次の作業に備えていきます。
この日の操業時間は90分間の予定でしたが、各船の漁獲状況を見極めていた漁協から30分間延長との指示が無線を通して流れてきました。それに従い、森川さんたちも8時45分までマンガンを曳く作業を繰り返しました。
横浜町のナマコは最近になってブランド化が図られ、全国に知られるようになりましたが、漁自体は10年ほど前から行ってきたと森川さん。
「漁獲は年々減少傾向です。乱獲が原因とは限らず、ヒトデによる食害も影響しています。そのため漁をしながらヒトデの駆除も行っています」
帰港後に樽に入れたナマコを水揚げし、後片付けを済ませると、続いてホタテ養殖の「通常業務」へ。
なお、この年の横浜の年末の風物詩ともいえる「ナマコ漁」はわずか2日の操業で幕を閉じました。