滑らないようで滑る話 【海の道具】
果たしてどれくらいの人が、なぜデッキシューズがデッキシューズと呼ばれているかを知っているでしょうか。 甲板=デッキを歩くのに適しているからデッキシューズなのです。当たり前ですね。
では、どんなところがデッキを歩くのに適しているのか。
まずはその靴底の形状を語れなければ、マリンの通人と胸は張れません。一見、ただの平面に見えるのですが、反らせてみるとカミソリで無数の切れ込みを入れたような独特のソールであることに気づきます。この独特のソールを持ったデッキシューズは、1935年に発売されたもの。最初の製品は革製のモカシンではなく、キャンバスオックスフォードのデッキシューズでした。ポール・スペリー氏が、氷の上を滑らずに走り回る犬を見て、その足の裏を参考にして考案したのが始まりで、「スペリー・ソール」といわれています。
現在でも、多くのデッキシューズが同様のソールを採用していることからも、その効果のほどが伺えます。本当に滑りにくいのです。
今では各マリン専門メーカーが、波型だけではなく、タイヤのスリットなどを参考に様々な溝形状を施して滑り止めに努めています。
航行中のヨットなどでは、足を滑らせることが死亡事故にも繋がりかねないので、その機能こそが最重要となるのも頷けます。
次に挙げるべき事項が、ローカットの靴丈であること。いかにも脱げやすそうで、滑り止め機能と相反しているような気がしますが、脱げやすいことにはわけがあるのです。一旦落水してしまったら、靴は泳ぐのに邪魔になります。素早く脱ぎ捨て、泳ぎ始めなければならないのです。とは言え、普段はスポスポ脱げるのも困りもの。そこでくるぶしとアキレス腱の付け根にあるへこみに合わせてぐるりと紐を回して脱げ防止のストッパーとしているわけです。
今はすっかり夏のファッションアイテムとして定着し、船のデッキよりも、オープンカフェのデッキでお目にかかることの多いデッキシューズではありますが、そんな場で、デッキシューズの由来や薀蓄を垂れても、おそらく滑るだけだから止めておきましょう。