プロ・フットボーラーのカルチャーショック。 【 キャビンの棚】
ここは海の本や音楽、DVDなどを取り上げるコーナーなのですが、「奇跡のタッチダウン」は、タイトルからお察しの通り、ボートやヨットはおろか、海にもほとんど関係のないアメリカンフットボールをテーマにした娯楽小説です。それでも読んでいるうちに、この小説に共感してくれそうな海好きたちの顔が次から次へと浮かんでくるから不思議です。
NFLで大チョンボを繰り返してきたクォーターバックのプロ選手が、ついにどのチームとも契約を結ぶことができなくなり、イタリアのパルマにあるチームと契約し、海を渡ります。様々な挫折を味わいながらも、イタリアで頑張るアメリカンフットボーラーの活躍が描かれます。
スポーツ小説ファンならずとも楽しめると思わされたのは、彼が出会うイタリアの文化とカルチャーショックに関する内容。特に料理やワインのことに割かれたページ数の多いこと。アメリカ人である主人公は今まで自分が食べてきたものはいったい何であったのかと唸るほどの味に酔いしれるのです。そのシーンは見事で、私たちの普段の料理のヒントになりそうです。
海を愛する人々には食い道楽が多いという気がしています。それも単に好きなのではなく、知識の深さにまで及んでいく。そして、それらの知識や体験はどうやら豊かな船遊びを送るのに必要不可欠なアイテムであるらしい。いや、船遊びをしているうちに身についていくのかもしれません。
同じようにアメリカ人の主人公にとって、イタリアでのアメフト生活にはこの「食事」は無くてはならないもの、イタリアを知り、好きになり、よりよいプレーに欠かせないものであったようです。
著者のジョン・グリシャムは「評決のとき」、「ペリカン文書」や「依頼人」など、映画化された法廷ものの作品が多い人気作家ですが、この「奇跡のタッチダウン」はまさに異色の作品ですが、その守備範囲の広さには感心するばかりです。道楽者なのでしょう。魅力を改めて知ることのできる一冊でもあります。