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苦しい状況で、強靱な肉体は力強い味方になる 【We are Sailing! 】

 水野元晴さんは、2016年のYAMAHA SAILING TEAM発足当初からチームの専属トレーナーとして活動を共にしてきました。自身の競技歴は、千葉県の強豪校で甲子園を目指して白球を追いかけていた元高校球児で、ヨットレースなどセーリングスポーツの競技歴はありません。

 「20代の頃に、趣味で始めたウィンドサーフィンが縁で、JSAF(日本セーリング連盟)から一人乗り種目のフィジカルトレーナーを依頼されたのが始まりです」(水野さん/以下同)
 現在は、髙山大智/盛田冬華チームの専属トレーナーとして、日常的なフィジカル管理や、主要な大会に向けての身体作りのスケジューリングなど、選手たちのコンディションを総合的にフォローする立場にあります。
 日本では数少ない、セーリング専門のスポーツトレーナーとして、セーリング競技におけるフィジカルトレーニングの難しさを聞いてみました。

水野元晴(みずの もとはる)
スポーツトレーナー。ヤマハセーリングチームフィジカルコーチ。高校時代は野球部で甲子園を目指す高校球児。高校卒業後は鍼灸マッサージの専門学校で国家資格を取得後、アメリカンフットボールなどのスポーツトレーナーとして活動を開始。20代で趣味として始めたウィンドサーフィンが縁となって、セーリング競技のトレーナーを開始。2年前に神奈川県逗子市に「セラピールーム逗子」を開業。

乗り物は使うが、扱うのは生身の人間

 「ヨットレースは道具を使うスポーツということもあってか、他の競技スポーツと比べると歴史的に身体作りに対する意識が多少低い傾向があったと思います。非常に複雑な要因が絡み合って勝敗が決まるので、負けた言い訳がいくらでもできちゃうところがあるんですね(笑)。負けた原因がなかなかフィジカルに結びつけにくいし、反対に身体作りをしたからといって、それが目に見えて結果に結びつくということもない。だから、なかなか身体作りの重要性が理解されなかったんでしょうが、いくら道具を使う競技であっても、それを扱うのは生身の人間ですから、身体作りは非常に重要な要素であることに変わりない。そのことを選手たちに理解してもらうことが第一歩ですね」

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「もう一つ、ヨットレースで難しいのは、風や波のコンディションによって、選手に要求される要素がガラリと変わってしまうところです。さらに競技が行われる時間帯も安定してませんし、主要な国際レースになるとひとつのシリーズが1週間も続きますので、コンディションの維持には気を遣います。あと、他の競技と比べるとオフシーズンがはっきりしないので、トレーニングメニューのプランニングも難しい競技ですね」

470級セーラーに要求されるフィジカル要素とは?

 「470級のヘルムスマンに要求されるのは持久力です。特に男子であれば、筋力面でこの部位の強化が必要という部分は特になくて、時に2時間を超えるレースの中で、高い集中力を維持できる心肺機能の持久力が最も大切な要素だと思います。これはクルーにも要求される要素なので、選手には心拍計を着けてもらって、乳酸値の測定も適宜おこなうことで、必要なトレーニングメニューを作成しています」

クルーの場合は、トラピーズ(艇外に身体を乗り出すための用具)を使うので、広背筋を中心にした上半身の筋力強化が必要になります。特に女子の場合は、上半身の筋力が男子に比べて圧倒的に不足しているので、男女混合種目となった今は、女子クルーのフィジカル強化は非常に重要な要素になっていると思います」

 髙山、盛田の両選手は、必要に応じてトレーニング機器が充実している水野さんの「セラピールーム逗子」に出向いて、トレーニングの指導を受けています。葉山マリーナ沖で海上練習をしたこの日も、マリーナから4kmほど離れた「セラピールーム逗子」に自転車で向かい、トレーニングに汗を流していました。
 トレーナーの水野さんから見て髙山、盛田の二人は、競技者としてどのように映っているのでしょうか?

 「髙山くんは本当に熱心にトレーニングに取り組んでいます。人間の身体の構造や、トレーニングの理論なんかにも非常に興味を示していて、トレーニングの指導をしている間にも様々な質問が飛んでくるので気が抜けません(笑)。髙山くんは自分の頭で理解して納得してから取り組みたいタイプのようで、自分で納得したことはとことんまで追い込みますね。高校を出たばかりの頃から比べると、彼のフィジカルパフォーマンスは200%以上上がってます。もう別人ですよ。特に、大腿四頭筋の発達は目を見張るものがあります。470級のヘルムスマンとしてそこまで必要かどうかは疑問ですが(笑)、ハイクアウト(艇外に身体を乗り出すこと)の時に主に使う筋肉なので、少なくともディンギーセーラーとして無駄になることはありません」

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 「一方、盛田さんはトレーニングを本格的に始めたのは、大学4年生の秋に大学ヨット部の活動が終わってからなので、まだ1年ちょっと。最初に見たときは、普通の大学生の女子といった感じでしたが、彼女も非常に真面目にトレーニングに取り組んでいるので、たった1年で見違える身体つきになりました。ちょうどコロナで様々な活動が制約された時期と重なって、その1年間は身体作りに専念することができたのが結果的には良かったと思います。遠征の合間にするのと、集中的に取り組むのでは、その効果は全く変わってきますから、チームを始動するタイミングで、まず身体作りを優先できたことは盛田さんにとってラッキーでした」

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人間の活動の全ての土台は肉体です

 水野コーチが語るように、ヨットレースはたくさんの要素がその勝敗に影響する競技です。オリンピックという頂点を目指すセーラーであれば、それらの要素全てのパフォーマンスをバランスよく向上させていく必要があります。
 身体づくりという要素は、ヨットレースという競技においては目に見えた結果として現れにくいこともあって、その優先順位を高く設定している選手は少ないのが現状です。しかし、人間の活動の全ての土台は肉体です。

 いま、髙山、盛田の両選手はその土台づくりに地道に取り組んでいます。これから始まる長い代表選考のなかで、選手は必ず精神的、肉体的に追い込まれていくことになります。その苦しい状況に立たされたとき、二人にとって水野さんと共に作り上げた強靱な肉体は、必ずや力強い味方になってくれることでしょう。

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ヤマハボート


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