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シャーロック・ホームズ 生みの親の航海 「ドイル傑作集II―海洋奇談編―」 【キャビンの棚】

 名探偵シャーロック・ホームズの生みの親、英国の作家コナン・ドイルは、船医として捕鯨船に乗り、8か月を洋上で暮らしました。船医の仕事は、医学部の友人の代わりに、たまたま行くことになったのだとか。その後、アフリカ西岸航路の貨客船でも再び船医として働きました。

 「この二つの航海は合わせて一カ年くらいの短期間であったが、このときの経験がこの一冊を書くのにだいぶ参考になっていると思う」と訳者の延原謙氏が解説しています。

 そんな経験からドイルは海を舞台にするミステリー作品を多数残しています。死の前年に自身の短編をまとめた「コナン・ドイル・ストーリーズ」の中で「青い海の物語(Tale of Blue Water)」として集めた作品が本作「ドイル傑作集Ⅱ―海洋奇談編―」です。

ドイル傑作集II―海洋奇談編―
著者:コナン・ドイル
訳:延原 謙
発行:新潮社

 本作には、6つの短編を収録しています。各作品は、帆船による航海の様子がリアルに描写されていて、劇的な構成も持つ味わい深いものです。なかでも特に評価が高いのはミステリー「J・ハバクク・ジェフスンの遺書」でしょう。

 「J・ハバクク・ジェフスンの遺書」は、世界の海洋史上、最も深い謎に包まれた漂流船であるメアリー・セレスト号事件を題材にしたものです。白人として唯一の生還者である医師のJ・ハバクク・ジェフスン博士が、日記を引用し、不運な航海を克明に語ります。

 ほかにも、幕末の日本、開国したばかりの横浜に滞在した貿易商が、トランプ賭博で大負けし、船で国外に逃亡しようとするサスペンス「ジェランドの航海」、“絶対に開けぬように”と注意書きされた怪しすぎる箱をめぐるホラー「縞のある衣類箱」などを収録しています。

 シャーロック・ホームズの陰に隠れてしまいがちなコナン・ドイルの海洋文学は、彼の描く個性的なキャラクター達がやっぱり面白い。おすすめです。

文:上野就史(うえの なりふみ)
渋谷の小さなミュージックバーの元店長。30歳直前に渡欧し、カナリア諸島テネリフェ島に滞在。帰国後の編集プロダクション勤務で海をますます好きになった。現在はフリーランスのライター。1984年生まれ、福岡県出身。


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