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世界を旅する牡蠣でイタリアン 「牡蠣のスパゲッティーニ」 【船厨- レシピ】

 作家には食いしん坊が多いですね。拙子が敬愛する開高健、池波正太郎、そしてヘミングウェイもそう。その感性と才能は言うまでもなく、表現はすさまじく秀逸で、彼らの食べ物にに関する記述に出会うと、それまで好きだった食べ物に、また違った魅力が感じられ、さらに好きになったりします。牡蠣はもともと大好物でしたが、ヘミングウェイや開高健のおかげでさらに好きになりました。

私は平たい牡蠣の二ダース目にとりかかった。銀の皿に敷かれた氷片の上から牡蠣をとりあげ、絞ったレモン汁をたらすと、信じがたいほど繊細な茶色いへりの部分が即座に反応して反り返る。それを見ながら、殻とつながっている貝柱を切り離して本体を口に運び、じっくりと嚙みしめた。(アーネスト・ヘミングウェイ『移動祝祭日』高見浩訳/新潮文庫)

 ヘミングウェイの亡き後に発表された遺作「移動祝祭日」には、若き日のヘミングウェイがパリのレストランで牡蠣を口にするシーンが何度か出てきます。引用した一節に出てくる“平たい牡蠣”とはマレンヌ産の平牡蠣のこと。フランスの大西洋に面したマレンヌはとても小さな町ですが、牡蠣の一大産地として知られています。ところが、ヘミングウェイがこのマレンヌ牡蠣を食したのとほぼ同時期、マレンヌ牡蠣が伝染病によって大量斃死してしまい、ポルトガル産の牡蠣を導入して牡蠣洋食の再建が図られたそうです。

このポルトガル産の牡蠣=ポルテュゲーズ牡蠣は同じく「移動祝祭日」にも登場します。

その短編を書き終えたノートを内ポケットにおさめてから、ポルテュゲーズ牡蠣を一ダースと辛口の白ワインをハーフ・カラフで持ってきてくれ、とウェイターに頼んだ。(〜中略〜)牡蠣には濃厚な海の味わいに加えて微かに金属的な味わいがあったが、それを白ワインで洗い流すと、海の味わいと汁気に富んだ舌ざわりしか残らない。それを味わい、殻の一つ一つから冷たい汁をすすって、きりっとしたワインの味で洗い流しているうちに、あの脱力感が消えて気分がよくなった。(同)

 これもまた、なんとも美味そうです。
 フランスでのポルテュゲーズ牡蠣の養殖は、マレンヌと同じく大西洋に面したアルカションの沖で運搬船が遭難した際、積み荷であった牡蠣を湾内に海洋放棄したことから始まったそうです。ところが、1970年代に、今度はそのポルテュゲーズ牡蠣がマレンヌ牡蠣と同じく伝染病によって壊滅状態に陥ります。そしてその代わりにフランスに導入されたのが、なんと、我らが愛する日本産の真牡蠣だったのです。
 もちろん、こんな蘊蓄が拙子に備わっていたはずもなく、「移動祝祭日」に登場するポルテュゲーズ牡蠣やマレンヌ牡蠣のことをあれこれ調べていたら、たまたまたどり着いたオチであります。
 ちなみに広島県のマルト水産さんのホームページ内にあった「世界牡蠣面白物語」がとても面白く、参考になりました。

 貝類の養殖はとてもデリケートです。日本の国内でも、ある地域の養殖が不作だったり、大量斃死の被害が発生すると、たとえば東北の帆立が北海道へ行ったり、広島の牡蠣が宮城に行ったり、またその逆であったりと、旅をしているのです。宮城県の牡蠣が2011年の震災で壊滅状態に陥ったときは、広島県が支援し、牡蠣ばかりか養殖資材までもが宮城県に送られています。

 さて、ヘミングウェイを読んでいたら無性に牡蠣が食べたくなりました。で、生牡蠣の他、ごらんの「牡蠣のスパゲティーニ」をつくってみました。いまでは一年中食べられる牡蠣ですが、やはり冬の牡蠣は格別ですね。牡蠣は宮城産、パスタとトマトはイタリア産でございます。

「牡蠣のスパゲティーニ」

■材料(2人分)
パスタ(スパゲティーニ※)200g、牡蠣6〜8個、にんにく1片、カットトマト水煮1/2缶、オリーブオイル大さじ2、白ワイン20cc、バジリコ2〜3枚、イタリアンパセリ2〜3枚、塩 胡椒適宜
■作り方
1)牡蠣は細かく切る
2)フライパンでオリーブオイルを弱火で熱し、半分に切ったにんにくを入れ、香りがたったら取り出す
3)強火にして牡蠣を炒め、軽く火が通ったら白ワインを加える
4)カットトマトを加え水気が無くなるまで煮詰め、バジルとイタリアンパセリのみじん切りを加え塩、胡椒で味を調え、茹でたパスタの上にかける
※スパゲティーニは1.6mm前後のスパゲティです。


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