真夏のような夜に愉しんだ最高の「ブリしゃぶ」 【レシピ- 船厨】
マダイを釣ってやろうと、ひとり海に船を浮かべていたら、思いがけない魚が釣れました。ブリです。ワカシでもイナダでもワラサでもなく、本当のことを言うとワラサにかなり近いサイズだったのですが「ブリ」ということにします。「釣り人と話すときは両手を縛っておけ」とは古の賢人の言葉ですが、いま、拙子の両手は自由です。なにしろ、ネット(タモ網)に入れるまでが、たいへんだったんです。これくらいのホラは許してください。
真夏を思わせる陽気でした。タイラバというルアーでマダイを狙っていたのです。ベイト(大型魚の餌となる小魚)の塊が魚群探知機に映ったのでルアーをジグ(万能タイプのルアー)に取り替えて海に放り込み、リールを巻いていたら「ぐわん」とロッドがしなりました。とても重たくて、なかなかリールが巻けません。最初は根掛かりを疑ったのですが、すぐに手応えが魚だと判るものに変わりました。
手にしていたロッド(釣り竿)もリールも、それに巻いてあった釣り糸もかなり軽めのものでした。慎重になります。そして汗だくです。10分ぐらいは格闘したでしょうか。
ようやく水面に現れた魚体を見て驚きます。ワラサ? 左手にロッド、右手にネットをつかみ、魚を取り込みます。ネットが小さすぎます。それでも深めのタイプのネットだったので、魚を頭から無理矢理入れさせ、ロッドを置き、なんとか両手でデッキに引き上げることができました。
魚体はまんまるで、肥満体です。片手で持つことはできませんでした。この時点で、ワラサではなくブリということにしようと決めました。
船上で、血を抜いて、氷をたっぷり入れたクーラーボックスに入れ、拙宅まで持ち帰ったわけですが、台所のまな板に載せようとしたら、乗っかりません。シンクにも収まらない魚体を前に、出刃包丁を持ったまましばし呆然とし、自分でするのは諦め、魚屋さんに持って行ってさばいてもらいました。
柵とアラになった魚を受け取るとき魚屋さんが言いました。
「“ブリ”だから、どうしても虫がいるかも。よくかんで食べな」
やっぱりブリでいんじゃないか。
昨冬、恒例である寒ブリのしゃぶしゃぶを食べ損なったことを思い出しました。気温が30度を超える真夏日でしたが、ダイニングの窓を開けるとそれなりに涼しい風が入ってきます。釣ったときも、食べたときも汗だくです。真夏日のブリしゃぶ、最高でした。
もちろんそれだけでは食べきれず、3日間にわたって、ブリ大根、刺身、アラ汁、漬けを食べ続けました。正直言って、もうたくさんです。しばらく、ブリはいりません。