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「速吸瀬戸」の魚の価値をもっと上げる 【ニッポンの魚獲り】

 豊後水道の中でも、九州と四国がもっとも接近する豊予海峡。別名を「速吸瀬戸はやすいのせと」と呼び、その名が示すとおり潮は急流で、そこで育まれた魚は身が締まり、消費者にも人気です。なかでもアジとサバは、魚を傷めない一本釣りという漁法、徹底した鮮度保持と品質管理によってブランドにもなるほど。

 この速吸瀬戸でアジやサバを獲る太田貞登さだとさんは、もともと瀬渡しの船に乗ったりして釣りへ行くのが好きだった釣りファン。そのうち自分の船を持って釣りをしてみるともっと釣れる。これは商売になると考えて、それまでの配管工という仕事をやめ、漁業一本でやっていこうと決めた漁師さんです。

速吸瀬戸でアジやサバの一本釣りを営む

 漁師に転向するときは、 “県でもトップクラスの技術を持った職人”と評価されていたこともあって、元の職場関係者を中心に反対されたといいますが、家族の後押しもあって、転職を決意しました。

「最初は不安もあったけど、好きな仕事を長くやってもらえればそれでいいと思って、特に反対はしませんでした。今、主人がいきいきと仕事をしている姿を見ると“ああ、漁師が好きなんだなあ”。賛成して良かった”と改めて思います」と、奥様は語っていました。

 太田さんの一日は夜明け前の午前2時から始まります。
「まず港の船に行き、前日釣れた魚を締めます。それから車で大分市内の市場に魚を卸しに行く。家に戻るのが朝の5時前。朝飯を食べてから出漁です。潮や天候、漁にもよるけど早い時は10時か11時。釣れる時はそれこそ日が沈むまで沖にいます」

 今、疑似餌を作るのは奥様の仕事となっています。それでも作り方や使用するラメの数などこと細かく指示をするのは貞登さんのこだわりです。

奥さんが作っている一本釣り用の疑似餌

「針は市販のものもありますが、妻が作ったものは良く釣れるし、3、4倍は持ちがいい。船の艤装にしても釣りの仕掛けにしてもとにかく徹底的にこだわりますね」(太田さん)

 愛船を造る時は、特に艤装(船の装備を取り付ける)段階に入ってから造船所に入り浸りの毎日だったといいます。

前職の技を活かして魚に手を触れずにイケスへと送り込む配管を船上に施した

「たとえば、とも(船の後部)で釣った魚をイケスに移す時は網も手も使わずにすむようパイプを使っています。これもオリジナルです」

 これらはすべて自分の獲った魚の商品価値を高めるための工夫です。

「ふつうのアジは水槽に入れると1週間ほどで死んでしまいますが、これで1ヶ月は生きていられる。いい魚しか市場に出さない。人の口に入るまでのことを考えて漁をしています」

 ここまでのこだわり様だから、当然休みは減ってきます。休漁となる第三火曜日と時化の日は道具の手入れに費やされます。

 いまは正組合員となったことで、釣りだけでなく、新た漁にも取り組み仕事を広げていく太田さん。
 「漁師になったことは後悔していないよ。沖で時化に遭い“ああ、きょうは出なきゃ良かった”なんてことはときどきあるけど(笑)」

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