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味も量も自分の好みに仕切り直した穴子丼。 【レシピ- 船厨】

 先日、ある取材で広島を訪れた際に、時間を作って厳島いつくしまに渡ってきました。日本三景の一つに数えられている、いわゆる「安芸の宮島」です。もみじ饅頭で有名なものだから、いい歳になるまで「秋の宮島」だと思い込んでいたことはここだけの話です。

 地元の方や宮島に行ったことのある方はご存知だと思いますが、ここは食いしん坊にとって楽園ともいえる島です。買い食い天国なんです。
 ほかほかの「紅葉饅頭」やら、熱々の「焼き牡蠣」やら、棒に刺さった練り物の「にぎり天」など胃袋がいくらあってもたりないぐらい、新旧入り交じったさまざまな買い食いのターゲットがあります。道歩きながら目に付く美味しそうなものを食べまくり、最後の締めは「穴子丼」となります。

 島には穴子丼を供する店が幾つもあって迷ったのですが、比較的空いていた店を選んで入りました。
 そのお店を選んだことを後悔したのは、穴子丼を3分の1ほど食べてからのことでした。むむ、ご飯がどんどんしょっからくなっていく。ご飯粒がつゆに浸りだした。
 いわゆる「つゆだく」の穴子丼だったんです。で、ご飯だけ食べきれない穴子丼を前に、隣の見知らぬ人が注文した穴子釜飯をちら見しながら、あっち(釜飯)にすれば良かったと、無念に駆られたのでありました。

 なんのはなしか忘れましたが、子どもの頃に聞いた落語の中で鮨の食べ方を語るのを聞いたことがあります。そのなかで、主人公は連れが醤油にシャリを直接をつけるのを見て苦言を呈するのです。
 「それじゃあ、シャリが醤油のなかにこぼれて残っちまう。まるでウジ虫みてえだ。鮨はな、親指がネタの上になるようにつまんで、それを下にしてネタに醤油を付けるんだ」
 とかなんとか講釈をたれるのです。これがいつまでも頭に残っていて、醤油やタレのなかに米粒が存在しているのをどこか許せなくなってしまった、というわけです。そもそもつゆだくは丼もののくせに箸で食べきれない。だからスプーンが付いてきたりする。それも筆者の中ではルール違反です。「粋じゃあない」と、そう思うようになったわけです。丼物自体が粋かどうかはさておき。

 以上はあくまでもかなり偏屈な見解であるとの自覚があります。それこそ半分は“ネタ”ですので、つゆだくファンの方はどうか気にしないでください。本欄もあのタレがそれほどしょっからくなければ、美味しくつゆだくを平らげていたと思います。

 さて、ご飯を食べきれなかったものの、これでへこたれる本欄ではありません。広島から帰ってから、穴子を取り寄せて、ノーつゆだく! な穴子丼を作りました。

 アナゴ(穴子)はけっこうな悪食で、目に入るものだったら、とは言いすぎだろうけど、といかく何でも食べる魚だと言われています。だから美味い穴子の見分け方に「腹の膨れたものは避ける」というのがあるそうです。太っていればいいというものではなく、スリムな格好いい穴子がいいらしい。過食で腹の出た穴子は腐るのも速く、味も今ひとつになるのだとか。もちろん、専門店から取り寄せた穴子ならきっと心配ありません。美味いアナゴを送ってもらえるはずです。

 まずは頭を目釘で止め、胸びれのすぐ上から包丁を入れ、背開きに骨をそぎ取る。そしてたれを塗りながらゆっくりと炭火で焼く。香ばしい何ともいえぬ香りが漂い、調理までがイベントなんだと思えます。アナゴは贅沢に二段重ね。もちろんタレは掛けすぎずに。ああ美味い! 広島の旅がこれで完結しました。

穴子丼

■材料
アナゴ(好きなだけ)、出汁昆布、醤油100cc、みりん100cc、酒100cc、砂糖適宜(好みで)、ご飯

■作り方
1)まずタレを作る。だし昆布を入れ、分量の醤油、みりん、酒を合わせ、ひと煮立ちさせ、昆布を取り除き、弱火で煮詰める。甘いのが好みなら砂糖をいれる
2)穴子は開いて竹串を刺し炭火で身の方から焼く。
3)ひっくり返して皮も焼く。
4)ある程度焼いたところでタレをつけ、こがさないように両面を焼く。
5)暖かいご飯にタレとともにのせる。好みで錦糸卵、三つ葉など。

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