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“創作の世界って海に似ている”。 65歳から始まった映画づくり 【キャビンの棚】

 幾つになっても生きがいがあることは素晴らしいことです。ただ、会社員の2人に1人は生きがいがない、なんてデータもありますよね。職場、学校、お家でいくら頑張って見つけようとしても、見つからない時は見つからないもの。そんな生きがいを町でたまたま出会った人が見つけてくれたとしたら…。

 本作の主人公は65歳の女性・うみ子。「うみ子さんって、映画を作りたい側ではないの?」と映画館でたまたま同じ映画を観ていた、映画を学ぶ大学生に言われたうみ子は、映画を撮ることを決意します。人生ではじめて情熱を注ぎこめる生きがいを見つけたことで、うみ子の生活は一変しました。

 自分はいったい何を撮りたいのか?そんなことを心の奥深くで探すことは、深い海の中でエサを探す深海魚のよう。うみ子は、“創作の世界って海に似ている”と考えました。物語で、繰り返し押し寄せる波は創作意欲のイメージ。大海原に乗り出す小舟のように自分も映画の世界に飛び込みたい。そして、うみ子は、自分が“海”自体を映画にしたいことに気づきます。

 映画に打ち込む姿はまさに真剣そのもののうみ子ですが、そのキャラはマジメ一辺倒というわけではありません。恩人である大学生を探し、まさかの大学入学。サークルの飲み会では、少量しか飲まない今どきの学生さん達の前でイッキ飲みしたあげく、ダンスホールで大暴れ。昭和な空気を感じさせつつ、スマホで撮った映像は素晴らしかったりする天才肌の人物です。

 とはいえ、本作は映画作りを生温く描いた恋愛学生マンガでは決してありません。ロケハン、カメラ撮影、キャスティング…映画づくりの複雑なプロセスをリアルに描いています。大学で映画を学ぶ難しさや年の離れた同級生とのジェネレーションギャップにも苦しむうみ子。本当に65歳で映画づくりが始められるの?

 「志を立てるのに老いも若いもない」なんていいますが、その道はきっと甘いものではありません。スマホとSNSを組み合わせれば、誰でも、いつでもクリエーター気分になれる昨今。本当の創作って一体どんなものなのでしょうか。まだまだ連載の続く本作の展開は気になるばかりです。

海が走るエンドロール(1〜2巻)
著:たらちねジョン
価格:定価660円(税込)
出版:秋田書店
(月刊「ミステリーボーニタ」にて連載中)


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