海におちて10日間、ノーベル賞作家がまとめた「ある遭難者の物語」 【キャビンの棚】
時間の進み方は常に一定です。けれども、時間は楽しいと早く過ぎて、つまらないとなかなか進みません。時間って不思議なものです。そして本書を読んで、本当に過酷な経験で人は時間が止まったとように感じることがあるのだと知りました。
本書「ある遭難者の物語」は、コロンビアの軍艦から海中に転落した8人の乗組員で唯一の生還者である水兵フランコが10日にわたって漂流した話です。フランコは、イカダで漂流した初夜は、途轍もなく長い時間になったといいました。
「最初私には海に三時間もいることなどとても不可能のように思えた」
そう語った彼は、目が痛くなるほど眺めたという時計を海に投げ捨てようとしました。
「人はどんなことにも慣れてしまう生き物だ」と言う人がいます。確かに一週間ほど漂流したころ、フランコは心や体のダメージを気にしないような素振りをみせました。しかし、それは慣れたというよりも、海の厳しい現実と向き合ってすべてを諦めてしまっただけというのが正しいのかもしれません。
著者は、「百年の孤独」で知られるガブリエル・ガルシア=マルケスです。ヘミング・ウェイと同様に海洋文学者であり、記者であり、そしてノーベル賞作家にもなった彼が、新聞社時代にフランコを取材しました。その時の記事をまとめた作品です。
つい先日、沖縄でSUP(スタンドアップパドル)に乗った20代の女性が14時間も漂流したというニュースがありました。GPSや衛星通信などのテクノロジーが発達した現代においても海で漂流する可能性は残されています。漂流から奇跡的に生還した人の話は人類にとって価値ある作品なのではないでしょうか。