編集部の「キャビンの棚」にジャズが多いのには理由ワケがあります。潮気があるからとか、海が似合うからとか、もちろんそういうことが理由ではなく、かつて編集部にいたグラフィック・デザイナーが、大量のジャズのCDを天国へ旅立つ直前に譲ってくれたというのが理由です。とにかく、デザイナーのセンスに絶大な信頼を置いていたことから、それにあやかりたいと願うスタッフがときどきそのCDを引っ張り出しては仕事中に聴いています。

　いまかかっているのはジャズピアニストであるビル・エヴァンスと、ギタリスト、ジム・ホールのセッションからなる「UNDERCURRENT」（アンダーカレント）です。

　荒々しい洋上での一日を終え、キャビンでくつろぐ夜は、心をほどくことのできる美しいものに触れたい気持ちが特に強まるものです。強風が吹けば吹くほど、空が暗ければ暗いほど、その傾向が強くなりませんか？ この「UNDERCURRENT」は、そんな一日を締めくくるのに、これ以上はないといえる音楽が詰まっています。
　と、この口上は、そのグラフィック・デザイナーの受け売りです。

　インタープレイ（相互作用の意）という手法、言葉を確立した上で注目される「UNDERCURRENT」ですが、巷では「ジャズレコードの中でもっとも美しい」といわれるアルバムジャケットにも注目したいところです。

　水面下に漂う女性を撮影したのはトニ・フリッセル（TONI FRISSELL 1907-88）。報道カメラマン出身ですが、戦後になってファッション誌などで活躍した女性写真家です。ジャケットを飾って眺めながら聴きたくなるアルバムのひとつですよね。