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鼻つまみ者のオオズワイガニを主役に抜擢しました。 【レシピ- 船厨】

 北海道の南部、内浦湾に面した長万部おしゃまんべは、美味しいホタテの産地として有名な町ですが、もう一つ、忘れてはならぬ、というより、忘れるはずのない名産があります。そう、ケガニです。毎年7月には「おしゃまんべ毛がに祭り」なんていう耳にも舌にも麗しい行事が行われ、町民はもとより、道外からもケガニにありつこうという観光客が集まります。ケガニの早食い競争などという、贅沢な、楽しそうなイベントもあるようです。

 長万部のケガニの漁期は毎年、6月から7月の初旬にかけて。漁は許可制、さらに一隻ごとに水揚げ量(ノルマ)が決まっていて、期間中、5、6日も操業すると、その年のノルマを獲り終えることもあるのだそうです。ところが、今年、異変が起きました。ケガニを獲るのに苦労しているのです。原因はオオズワイガニの大量発生です。
 ニュースでも取り上げられたオオズワイガニは、ヒラメの刺し網漁などにも影響を与えたらしい。漁師が網を揚げる前に、刺し網にかかったヒラメを食べてしまうのです。ケガニの場合は、餌を仕掛けたカゴを沈めて、それに入ってくるカニを捕まえるわけですが、オオズワイガニが多すぎて、彼らが先に籠に入ってしまい、ケガニの入る隙が無くなる。結局、ケガニよりもオオズワイガニが大量に漁獲されてしまうのです。大量発生の原因は不明です。

 同じように漁師に邪魔者扱いされるヒトデの大量発生などと異なるのは、このオオズワイガニ、実はケガニに負けず劣らず、美味い、というところ。ある地域では高級食材として重宝されるほどです。
 ところが、長万部で浜値を聞くと、驚くほど安い。オオズワイガニに憐れみを覚えるほど安い。サイズが小さめ、ということもあるようですが、どんなに美味くても、オオズワイガニは、ケガニの産地では決して主役にはれぬ、いわゆる「その他大勢」なのです。
 もちろん、水産関係者の間では、オオズワイガニを有効活用しようとする動きもあります。安く市場に出回れば、カニ好きにとっては、こんな美味いカニを安価で手に入れ、食べられるのですから、ありがたい話かもしれません。

 取材した長万部のケガニ籠の漁師さんから「けっこう身が詰まっているし、オオズワイガニはすごく美味いぞ。送ってやろうか」と有り難い申し出がありました。ケガニは漁師も家に持ち帰ることは禁じられているなど、徹底した管理の中にありますが、オオズワイガニは好きにしていいそうです。

 すでに茹でてあったカニをまるごと米と一緒に土鍋に放り込み、カニ飯をつくりました。炊き上がってから上に載せた蟹を取り出して、身をほぐしてご飯に戻します。一緒に炊かなかった蟹をもう1杯ほぐして、それもご飯に混ぜました。カニの肉をほじくり出す作業はあまり好きではありませんが、なぜかその作業がとても楽しい。なにより、その場に立ちこめる香りが最高です。そして味は評判通り、濃厚でした。北国の、夏の海の幸。このときばかりは、オオズワイガニは主役の座を射止めていました。

カニめし

■材料(4〜5人分)
ボイルガニ(ズワイガニなど) 2杯、米 3合、水 500cc、酒 大さじ1、白だし 大さじ3、みりん 大さじ1、醤油 大さじ1/2
■作り方
1)米は研いで、ざるにあげ、水気をきる
2)カニは水でよく洗う
3)土鍋に米を入れ、酒、白だし、みりん、醤油を入れ水を加え、カニ1杯を乗せて強火にかける
4)沸騰し湯気が出てきたら中火にして5分、弱火で10分炊き、火から降ろして15分程蒸らす
5)米を炊いている間に残りのカニの身をほぐしておく
6)炊き上がったご飯に、いっしょに炊いたカニの身と5をよく混ぜる※飾り用にカニのハサミや足をとっておいて、茶碗に盛り付けた後に乗せても良いです

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