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セーラー盛田冬華の原点 「いま、私は海の上にいるんだ。 しかもヨットに乗っちゃってる!」 【We are Sailing!】

高校生になってはじめてヨットに出会ったという盛田冬華。高校時代からクルー(2人乗りの小型ヨットにおいてバランスを取ったり、状況や進路の確認・判断、セールの操作などを行う)一筋。クルーとして好成績を収めていた大学時代に現在のヘルムスマン・髙山に見いだされました。

Sailor's File
盛田冬華(22歳)/千葉県出身
身長:172cm/体重:71kg

Episode 1:海辺の高校で出会ったヨット

 盛田冬華がセーリングと出会ったのは千葉県立磯辺高校に入学したときのこと。海浜大通をはさんで稲毛ヨットハーバーが目の前にある海辺の高校です。
「中学時代はバスケットボール部だったんですが、体力的にちょっと厳しいなあと思って、高校では違うスポーツをやろうと思っていました」

 1978年の創立と同時に創部された磯辺高校ヨット部は、これまで数多くの名セーラーが輩出してきた名門クラブ。部員の大半が高校でヨットに乗り始めているにも関わらず、インターハイでは常に上位争いに加わる強豪校です。でも、盛田は入学するまで自分の高校にヨット部があることを知らなかったといいます。
 「友だちに誘われてヨット部の試乗会に行って初めてヨットに乗せてもらいました。比較的海に近いところに住んではいましたが、その頃の私にとって海は完全に非日常の世界だったので『えっ?いま私は海の上にいるんだ! しかもヨットに乗っちゃってる!』なんて高揚したのをおぼえています」

 高校や大学のヨット部では多くの場合、ヨット経験者がヘルムスマン、未経験者がクルーというポジションとなることが多いのですが、部員の大半が未経験者の磯辺高校の場合、原則として本人の希望でポジションを決めているそうです。そんな中で、盛田はクルーを希望し、3年間クルーとして活動しました。
 「ヨット部に入ったときに、身長が高いからだと思うんですが、先輩たちが『盛田さんはクルーに向いている』と言われて、クルーが何なのかも知らなかったんですけど(笑)、向いていると言われたのがなんだか嬉しくて、クルーを希望しました」
 学校の目の前が練習場(海)という恵まれた環境で、普通の部活動のように毎日放課後にヨットに乗るという生活を続ける盛田たち磯辺高校ヨット部は地道に力を蓄え、高校3年生のインターハイでは、ジュニアのスターが揃う他の強豪校を相手に一歩も譲らない走りを見せ、420級女子で準優勝を勝ち取ることができました。

 高校卒業後は競技の継続は考えていなかった盛田でしたが、インターハイの好成績からいくつかの大学からスポーツ推薦の話しが舞い込み、そのうち法政大学のデザイン工学部への進学を決めました。
「法政にしたのは学部の選択肢が多かったから。もともと高校では理系のクラスにいたので、興味のあったデザイン工学部に進学することにしました」

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Episode 2:大学時代のスター・髙山とのコンビ結成

 進学した法政大学のヨット部では、470級のクルーとして活動していた盛田でしたが、さすがに大学卒業後の競技継続は無理だろうと考えていた3年生の12月。大学の先輩を通じて、女子クルーを探していた髙山大智と会うことになります。
 「髙山さんは1学年上で、そのときの大学ヨット界のスターでしたからもちろん知ってはいましたけど、まさかその髙山さんが私をクルーにすることを検討してるなんて。私より巧いクルーはいっぱいいるし、もちろん私は何人かの候補のうちの一人だとは思いましたが、正直うれしかったです。と同時に、これはチャンスだと思ったので、就活モードで思い切りヤル気アピールしました(笑)」

 あまり自己アピールが得意ではないタイプの盛田でしたが、このときは自分も驚くほど積極的に自分を売り込んだようです。このときの盛田の印象を髙山に訊いてみると。
 「正直、その時点では他にも何人か候補はいたんですが、初めて会ってしゃべった時点で、盛田に決めてましたね。何て言うか、話しをしていくときの理解度というか、理解を深めていくプロセスみたいなものが、自分と合っていた。ちょっとクルーワークが巧いなんてことよりも、そういう部分の方が自分にとっては重要で。何より意志の強さというか、圧みたいなものを感じました」(髙山)

 盛田が思わず繰り出した就活モードは見事に功を奏し、ここに新たなYAMAHAの470チームが誕生。とはいえ、盛田にはまだ大学生活が1年残っていたため、大学の練習やレースとは重ならないスケジュールでの活動でしたが、昨年まで日本のトップレベルで活動していたヘルムスマンとのコンビは、盛田にとって新鮮な驚きの連続でした。
 「髙山さんと乗って、“470ってこんなに速かったんだ”と(笑)。髙山さんと乗るようになってから、自分のクルーとしてのスキルもどんどん上がっていくのを実感していました。4年生の8月に関東の個人戦で6位に入賞できたんですが、そのときのヘルムスマンが『盛田の成長のおかげでとれた成績だ』って言ってくれて。ああ、客観的にみても巧くなってるんだと実感できました」

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Episode 3:世界のトップレベルに駆け上がる

 法政大学を卒業後、盛田はヤマハ発動機の嘱託社員として、ほぼフルタイムのセーラーとして活動中。チーム専属の水野トレーナーの指導のもと行ってきたフィジカルトレーニングの成果も、5kgの体重増という結果になって現れてきました。
「体重は増えましたが、それで身体が重くなったと感じることはありません。水野さんが470級のクルーに必要な筋力をつけるためのメニューを考えてくださっているので、それに従ってやっているうちに目に見えて動きもよくなってきたと思います」

 男女ミックス種目となった470級ではクルーにも男女が入り交じります。おそらく世界トップレベルの男子クルーの平均身長は185cmあたりが予想され、それに比べると172cmという日本人女子としては高身長の盛田でも明らかに低い。ディスアドバンテージはそれ以外の部分でカバーするしかありません。

 高校時代からアップウィンドコース(風上に向かうコース)でのコース取りを担当してきた盛田ですが、髙山とのコンビでは基本的なコースの決定権は髙山が下し、盛田はそのための情報提供を行うという役割を担います。高校から大学と、能動的にアップウインドコースのコース取りを行ってきた盛田には、同じ情報提供でも価値ある情報を選び取って伝えることができるはず。
 「まだまだ動作的な部分で髙山さんの足を引っ張らないようにすることが先決。でも、これからはどんどん自分の考えを伝えていけるようなクルーにならないといけないと思っています」
 動作的にまだまだと謙遜する盛田ですが、ヘルムスマンの髙山や鈴木コーチは、盛田の成長ぶりに太鼓判を押します。
「既に国内の女子クルーのレベルならトップクラスだと思いますよ。このまま努力を続けたら、世界のトップクルーのレベルに達するんじゃないかと思います」(髙山)。

 高校時代「クルーに向いてるよ」と言われてその気になった少女は、いま世界の頂点に向けて駆け上がりつつあります。 

●Photo by Kazuhisa MATSUMOTO

ヤマハボート


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