いくつ読める? お寿司屋さんでの、もうひとつの楽しみ方。 【キャビンの棚】
1988年に評者は初めてニューヨークへ行きました。お上りさんのご多分にもれず、出張のあいまを縫ってエンパイア・ステート・ビルに登ってみたいなあと現地に行くと、その一階には回転ずし店があったのでした。実は当時、まだ日本でも回転ずしには行ったことがなかったので、初の体験がNYというのも面白いと思って入ってみました。
おお、ホントに回ってる回ってる(笑)。いや、まったくのお上りさん気分です。ざっと見まわしたところ日本人らしい客は見当たりませんでしたので、かえって気楽なもんです。下手を打っても見咎められることはありませんから。と、これはそれなりに緊張していたんでしょう(笑)。
空いた席に腰掛けると、コンベアの上流隣の席には白人男性の一人客。身なりや態度から勝手な妄想を述べると、モンタナ州(なんでだ?)あたりから、やっぱり出張かなにかで上京したセールスマン(ほんとか?)かなにか、つまり、米国内のNYであっても、すし屋においては日本人である評者よりお上りさん度が強い方とお見受けしました。
いつから居るのかはわかりませんが、手元には空いた皿がまだひとつもありません。こちらが適当に1皿、2皿と取る間も、ずっと目の前を流れていく皿を観察しています。
これはアレだな、すしを食ったことがないんだな。
しばらくして、ついに手を伸ばしました。こちらも思わず横目で見てしまいました。だがしかし、鼻元に皿を近づけてくんくんした後、皿をコンベアに戻してしまいました。
そんなことを数回繰り返したあげく、ようやくお召しになったのは「ぎょく」でした。ああ残念。生魚はダメだったか。ま、余計なお世話ですがね、回転ずしというと、この話を思い出すんです。
さらに、すし屋といえば例の「魚へんの漢字」がずらり並んだ湯呑みが定番ですよね。NYでどうだったか覚えていませんが、本書は、その湯呑みに魅了されて、魚へんの漢字のみならず、魚の生態、味や調理法の研究家となった著者による、たぶん(笑)130字について、一字一字「どうしてこんな漢字?」「どんな魚?」「おいしい調理の仕方」を解説してくれます。
さて、読者のみなさんは、表紙の字を読めますか。
答えは、
です。
え? 一文字たりないって? そうなんです。表紙の右下にある、魚へんに横棒三本を貫く縦棒の文字はどうしてもPCで入力できませんでした。魚へん漢字には多いんです。AI君にも探してもらいましたが、それでも出てきませんでした。これは「はまぐり」が正解です。
書いていて食べたくなりました。近所に元・築地の仲買いだった人がやっているおいしくて安い店があるんです。これからさっそく行くことにしました。お酒はぬるめの燗がいいかな。
ああそうだ、言い忘れてました。NYでは、お勘定のときは「イクラ ?」じゃダメですよ、ロシア語ですから。ちゃんと英語で「魬 ?」と言いましょう。how muchと読みます(笑)。