なんとも言えぬ、独特の感覚と感動を手放したくなくて。 【社員紹介-私が海を愛する理由】
碧く、美しい海。延々と続く砂浜に沖から波が打ち寄せています。その波を、うねりを、一つ一つ、サーフボードにうつ伏せになって、パドリングで乗り越えながら、沖からやってくる最高の波を待ちます。といっても、いい波はそれほど頻繁に出現するわけでもありません。
「でもね、波の上をぷかぷか浮いているだけでも最高の気分でした。ああ、帰ってきたんだなあと実感しました」
長かった海外での駐在を経て、12年ぶりに入った故郷の海は、記憶にある光景から姿を変えることなく、そこに在り続けていました。
子どもの頃に地元の海で憧れたサーフィン
太田隆康さんは、遠州灘を望む、静岡県磐田市(旧磐田郡福田町)の出身です。子どもの頃から海を身近に感じてきました。豊浜海岸は遊び場のひとつです。
「中学時代なんかは、学校の目の前が海だったので、海辺に出ていくことがよくあって、授業で貝掘りに出かけたりすることもありました。福田には漁港があってシラス漁は今も盛んです。友だちにも漁師の家庭の子がいました」
夏になると、気持ちの良い海を求める多くの人で賑わう豊浜海岸で、太田さんは釣りをしたり、海岸でバーベキューをしたりと過ごしてきましたが、いつも気になっていた遊びがあったのだといいます。それがサーフィンでした。
豊浜海岸は比較的緩やかな斜面の波が立ち、距離の長い波に乗れることのできるサーフポイントとして知られており、多くのサーファーたちがサーフィンを楽しみにやってきます。そんなサーファーたちの姿を見て、太田さんも「いつか波乗りをしてみたい」と憧れていました。波乗り体験を実現させたのは大学時代です。
「子どもの頃からサッカーを続けていて、東京の大学に進学してからも体育会のサッカー部に入部していたので、なかなか他のスポーツを楽しむ余裕はなかったんです。それでも東京に来て2年目ぐらいだったと思うんですが、大学の先輩に誘われてはじめてサーフィンを体験したんですよ」
7月の終わり、午後でした。先輩のシボレーのブレイザー(四輪駆動の大型SUV)にボードを積んで、環八から第三京浜、横浜新道から、国道1号、そして134号。東京から湘南へと向かう、お決まりのコースでした。目指したのは藤沢の辻堂海岸です。そのドライブだけでも心が高鳴ったに違いありません。そしてボードを抱えて砂浜に立ち、波を見つめる。子どもの頃からやってみたいと願っていたサーフィンへの初チャレンジです。
「ところが、ボードの上に立つことすらできなかった。いちどもです。子どもの頃からサッカーをやってきて、運動神経にはけっこう自信があったんですよ。ショックでしたね。悔しくて、悔しくて」
だからこそ、その後も夢中になったのでしょうか。太田さんは大学を卒業し、就職してからもサーフィンに熱中しました。そしてサーフィンの真の魅力を味わったのは、東京から静岡県の磐田に転勤になってからのこと。子どもの頃の思い出がたくさん詰まった、福田の豊浜海岸だったのです。
サーフボードの上に立ち、波に乗れた時のことを忘れない
「先輩からロングボードに変えてみては?とアドバイスを受け、それから乗れるようになったんです」
初めてサーフボードの上に立ち、波に乗れた時、それがどれくらいの時間だったのか、今となってはわかりません。
「でも、今までに味わったことの無い感覚でした。波と同化するかのように走って行く。滑っていく。足の裏から波の鼓動がボートを通して伝わってくる。身体全体で受け止めるスピード感覚。この時間がいつまでも続いて欲しい、少しでも長く波に乗っていたいと、そう思いましたね」
その感覚をもう一度味わいたくて、手放したくなくて、太田さんはサーフィンを続けてきました。そして前よりも上手く乗れたとき、いつもより少し大きな波に乗って新しい景色をみたとき、その感動が絶えることなく人生に積み重なっていきます。
「仕事もあるので、海に行くのは、週末の朝だけです。季節に関係なく行きますが、冬の海が一番好きなんです。人が少ないのと、なにより水がきれいで空が澄んでいる。身が引き締まるような水の冷たさも好きです。なかでも日の出の時間は格別です。海の上から見る日の出は、本当にきれいなんですよ。それとね、知ってますか? 薄暗い時間から、サーフィンを始めて、寒くて冷たい冬の海に身体がつかっている時、太陽が出てきたその瞬間だけ、水温までが上がる感覚。その時だけフッと温かく感じるんです。不思議ですよね」
サーフィンに熱中しながら、もちろん家族との時間も大切にしてきました。一緒に海に出かけることもあります。
太田さんは1973年生まれ。今年50歳。30代、40代にまたがる12年間を、オランダ、タイ、シンガポールで過ごし、日本に戻ってきたのが2016年のこと。ブランクを経ても今、地元の海を思う存分楽しんでいます。
「やり続けられる間は、サーフィンを続けていきたいですね」
(題字:太田隆康)