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海賊と子どもたちの奇妙な船上生活 「ジャマイカの烈風」 【キャビンの棚】

 感染対策で休校中の2カ月の間に自宅学習で中国語をマスター。ちょっと前に耳にした、とある女子中学生の実話です。大人には到底できそうもないことをいとも簡単にやってのける子供たち。スポンジのように色々吸収するから、幼少期の体験や経験はいっそう大切なのでしょう。
 もちろん、それはいいように働くこともあれば、時には悪い影響も。たとえば、子どもたちの傍にいる大人が犯罪者ばかりで、それが海の上のような社会から切り離された場所だとしたら…。
 本作はジャマイカから英国に帰国中に、船で海賊に襲われ、誘拐されてしまう子ども達の海洋小説です。

 作者のリチャード・ヒューズは、1900年イギリス生まれ。オックスフォード大学卒業後、物乞いや街頭画家をしながら世界を放浪した経験をもっています。のちに小説を書き始め、1929年、処女作である本作を刊行。詩人・劇作家などさまざまな肩書きをもつ作者で、世界初のラジオ小説をつくったことでも知られています。

 物語は、親元から離れ、船に乗った8人の子どもたちと、略奪はするけど捕虜を殺さないという海賊との共同生活を描いています。海賊は、客船にみせかけて相手船を安心させるために子どもたちを利用する一方で、子どもたちも船上で思い思いの生活を楽しみます。次第に子どもたちの行動や発言に変化がうまれ、彼ら自体の仲間意識も分断されていきます。そして、船上で起きる殺人事件……。

 同じく漂流する子どもたちという設定の作品である「十五少年漂流記」や「ロビンソンクルーソー」のような人間賛歌にあふれるポジティブな作品ではありません。むしろ、子どもたちがもっている素晴らしい能力のなかにある、危うさのようなものを描いた作品です。エリート街道から一転、放浪生活を経験した作者ならではの、何が起こるかわからない“人間社会の闇”もテーマのひとつになっています。何をしでかすかわからない子どもたちを、結局、大人は理解できるのでしょうか。

 リチャード・ヒューズがのちに発表した「大あらし」とともに“英文学の永遠の古典”と評価され、一世紀近く読み続けられている海洋小説です。

「ジャマイカの烈風」
著者:リチャード・ヒューズ
訳:小野寺健
発行:晶文社
価格:2,090円


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