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魔法にかかった島々の、ミステリー。 【キャビンの棚】

 副題が英語で「THE BEAGLE IN THE GALAPAGOS」となっています。そう、あの進化論のチャールズ・ダーウィンが『種の起源』を著すきっかけとなった19世紀前半のビーグル号の航海が舞台。史実のはざまに巧妙に創作を盛り込んで、ガラパゴス群島内の閉ざされた小島に上陸した一行が次々と怪死を遂げてゆきます。
 犯人は一行のうちのだれかには違いない、それにしても動機は何か──。

 船付きの画家がワトスン役かつ語り手となり、探偵役は若きダーウィン自身。そして最後、生き残った全員が集まった中で、「犯人はお前だ!」式に謎解きを披露する、いわゆる「本格派」ミステリーなんです。なので、ここではあまりプロットの詳細を語ることができませんので、ちょっと話題を横道にそらしてみましょう。

 ガラパゴスと言えば、正統的には「初の世界自然遺産」であり、「生きる博物館」「種の方舟」として知られ、まあ野生の天国ですね。日本では「ガラケー」に代表される「絶滅必至の固有技術」のほうが知られているでしょうか。

 ところで、かつてガラパゴスには二つ名があり、スペイン語では「LAS ISLAS ENCANTADAS」、訳すと「魔法にかかった島々」と呼ばれていました。ちょっとロマンティックな感じがしますが、実は逆で、本書でも〈ビーグル号がその後訪れた文字通りの南国の楽園タヒチや、その他の熱帯太平洋のいかなる土地と比べて、はなはだしく異なる特徴を有していた〉と描写されます。

 ──神はこの島に、雨の代わりに、間違って岩をお降らせになったのだ。

 そうなんです。ガラパゴスは岩だらけで、真水がないんです。そのかわり付近を通る船乗りたち──鯨捕りや海賊ども──によって、有名なゾウガメは生きた缶詰として捕獲されていました。本書によると〈牛肉に似て美味〉だそう。わずかに真水が湧く島は海賊どもが隠れ家としました。無法者の流刑地ともなりました。何度か各国から植民の企てがあったのですが、さまざまな悲劇・奇譚があり、20世紀初頭には無人島に戻っていました。その後もミステリー小説もかくやの入植者の迷宮殺人事件? などがあり、魔法というより「呪いにかかった島々」としたほうが適切かもしれません。興味がある向きは、オクタビオ・ラトーレの『ガラパゴスの呪い』をお読みください。

 ところで、実は筆者はガラパゴスを訪問したことがあるんです。もちろん、もう世界遺産として大部分が自然保護区域となった後のことです。泊まった宿は、チャールズ・ダーウィン研究所(ECCD)があるサンタクルス島プエルトアヨラの、その名も「ホテル・ガラパゴス」です。
 このホテルは1960年代初頭に、アメリカから来たフォレスト・ネルソンというヨット乗りが創業しました。ちょうどECCDの建設が始まった頃で、フォレストは建設主任として雇われ、給料の大半をセメント袋で受け取り、自作したそうです。筆者が滞在したときは息子のジャックに代替わりしていました。

 「思い出帳」というのかな、それに「妻と再訪を誓う」てなことを書いた覚えがあるんですが、HPを見ると、残念ながら“現在改装中”とかで営業していません。
 はたして再訪なるでしょうか(笑)。

「はじまりの島」
著者:柳広司
発行:幻冬舎文庫
価格:869円(税込)

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